シェル(SHELL)石油の貝のマークの話~ (「ユダヤ商法」より)

メキシコ湾の石油流出事故は、解決までにはまだだいぶ時間がかかりそうですが、一日も早く事態の収拾を図ってもらいたいものです。


さて、今日はそんな石油にちなんだ話をしたいと思います。



ホタテ貝のマークでおなじみのシェル石油(日本では昭和シェル石油)。

PA0_0509.jpg



この会社のマークが 「なぜ貝なのか?」という由来をお話ししたいと思います。


かなり長くなってしまいましたが、よろしければおつきあいください。





シェル石油の創始者であるマーカス・サミュエルは、1853年にロンドンのユダヤ人家庭に生まれました。


彼の父親はロンドンの裏通りを、雑貨を積んだ荷車を押して歩く行商人で、マーカスは11人兄弟の10番目の子供。


マーカスは幼い頃から利発でユダヤ人学校へ通っていましたが、学校にはなじみませんでした。


そこで父親はマーカスが19歳のとき、彼を商売の修業のためにアジアへ一人旅をさせることにします。


父親は乏しい収入の中から、息子に船の三等切符を買って与えました。




1872年、マーカスは一人でロンドンを旅立ちます。行き先は彼の裁量に任されていました。


船はインド、シンガポール、フィリピン、タイ、香港、中国と寄港しましたが、マーカスは最後の訪問港である横浜で降ります。


所持金は5ポンド。今のお金の価値でいえば5万円ほど。


当時の日本はまだ開国したばかりで、東京・横浜近辺でも外国人の数は数百人に過ぎなかったでしょう。


マーカスには頼れる身寄りや友人もなく、資金を借りられるような信用があるわけもありません。


19歳の青年にとっては、前途を思うとさぞ心細く、不安な気持ちであったでしょう。




寄る辺もないマーカスは、横浜をあてどもなく歩き回る日々でした。


そしてあるとき、湘南の海にたどり着きます。


つぶれそうな無人小屋にもぐり込んで、初めの数日を過ごしました。


そこで彼が不思議に思ったのは、毎日たくさんの漁師が浜にやってきて、波打ち際で砂を掘っている光景でした。


よく観察していると、彼らは潮が引いたあとの砂の中の貝を獲っていることがわかりました。

022.jpg
(2010年4月の、横浜の潮干狩りの様子)





マーカスはある日、貝を獲っていた漁師のあとをつけます。


すると、貝は食用に供されていましたが、貝殻は捨てられてしまうことを発見します。


このときマーカスにある発想がひらめきました。




マーカスはほとんどタダで貝殻を集め、ボタンやカフスボタン、子供用のおもちゃのシャベルや玩具を作り始めます。


また、大型の貝殻の内側に漆を塗って飾り物としたり、さまざまな美しい貝を施した細工物や、きれいな貝殻をちりばめた小箱を作りました。


ただ、これらの多くは、当時の日本にすでにあった民芸品を真似たものに過ぎませんでした。





マーカスはこのようにして作った品々を、ロンドンの父親の元へ送ります。


そして父親はこれらの品物を手押し車に乗せて、ロンドンの町を売り歩きました。




しばらくして父親から連絡がきます。


ボタンや子供用のおもちゃや貝の名札は確かに美しい。だが、買い手が見つからない。


しかし、黒い漆塗りの、東洋の異国情緒がこもった小箱はきわめて反応がよかった、と。


その小箱は、ビクトリア調インテリアの居間にあるピアノやコーヒーテーブルの上に置いて、葉巻やタバコ、小物などを収めるのにおあつらえむきだったのです。


やがて、マーカスが遠い日本から送る商品が大当たりしたため、父親は手押し車の引き売りをやめて、東洋からの輸入商品を売る小さな一軒の商店を開きました。そしてその店は、ほどなく大きな専門店に成長しました。

(このあたりの話は創業時の逸話に過ぎず、父親はすでに1833年には店を開業していたとの話もあります)





一方マーカスは23才で、横浜でマーカス・サミュエル商会を創業します。昭和シェル石油HPの会社案内の沿革は、サミュエル商会の設立から始まります(こちらのページ)。


マーカスは日本でさまざまな商品を作ったり買い付けたりして雑貨をイギリスへ輸出していましたが、それだけでは満足しませんでした。マーカスはまったく新しい分野にこそ大きな可能性があると信じていたのです。





当時、世界では新しい燃料である石油時代が幕を開けつつありました。


アメリカではロックフェラーが石油事業に取り組み、ロシアはロシア国内で油田を開発していました。


日本といえば暖房のための燃料として、炭しか使っていませんでした。


マーカスは軽油に関心を向けます。軽油を灯油に加工し、照明・暖房用として日本と中国向けに売ることを思いつきます。


この頃すでに、マーカスは商売でかなりのまとまった資金を蓄えていました。彼は、ロシアから石油を買い付けることにします。


しかし問題がありました。





当時、石油を船で運ぶのには5ガロン缶が使われていましたが、船主たちは船が汚れるので石油を運ぶのを嫌がっていました。船を洗うのに手数と費用がかかったからです。加えて、5ガロン缶を縄で結ばねばならなかったのも手間でした。




そこでマーカスは、船全体が一つの浮かぶ油槽である石油運搬用の専門船をつくることを思いつきます。


彼は造船の専門家を招いて、設計図を作らせたうえで、イギリスの造船所に発注しました。


こうして、世界最初の「石油タンカー」が建造されました。




さて、最初のタンカーが完成するとき、マーカスは船をなんと命名するか?思案しました。


船名の名付けにはルールが一切なく、何でも自由に付けることが可能だったのです。


それなら、青年時代に日本にまでたどり着いて、横浜の海辺に出て貝を拾った自分の商売の黎明期を記念にしようと思いました。


マーカスはタンカーの一号船を、「ミュレックス(アッキ貝)」と命名しましたアッキ貝は日本の海辺で採れる、もっとも代表的な貝でした。


マーカス自身、このことについて、


「自分は貧しいユダヤ少年として、日本の海岸で、一人で貝を拾っていた過去を決して忘れない。あのおかげで、今日億万長者になることができた」


と書き残しています。






第一号船は、恐れられていたように火災が生じることもなく、他の事故を起こすこともなく、全世界を石油を腹いっぱい積んで順調に走り回りました。


こうして、横浜がシェル石油の発祥の地となったのです。


石油に目をつけたマーカスにとって、望外な成功を導き寄せることになったのは、時代が石油を照明や暖房よりも、はるかに多くの用途のために必要とするようになったからです。マーカスには、先見の明がありました。だから新しい時代がマーカスに微笑んだのです。






その後もマーカスは精力的に事業を拡大していきます。


「ミュレックス」が成功したのに励まされて、八隻のタンカーを次々と発注して建造しました。


マーカスの手によって、「石油タンカー産業」が出現したのです。


マーカスは社名を、「ライジング・サン・ペトロリュウム」(日出る石油)会社と改めました。日本が日出る(いづる)国であることからとったものです。


こうして、横浜の海岸を新しい仕事を求めてさまよった孤独なユダヤ人少年が、世界的な大富豪になりました。


ついにマーカスはヨーロッパとアジアの石油市場を制したのです。






ところがです。





マーカスの石油事業が成功すればするほど、イギリス人のあいだから、ユダヤ人が石油産業で君臨していることに反発が高まってきてしまいました。


追いつめられたマーカスは、やむなくオランダとイギリスのコングロマリットに会社を売却する決断をします。


マーカスは、会社を売らなければならなくなったとき、いくつかの条件を出しました。


その一つは、少数株主といえども、必ずマーカスの血をひいた者が、役員として会社に入ること。


そしてもう一つは、発祥の歴史の象徴として、貝殻のマークを永遠に用いなければならない、というものでした。


それで、シェル石油の営業所には、今日でも必ず貝殻のマークが掲げられているのです。


こうして、マーカスが築いた会社は「ロイヤル・ダッチ・シェル」という名前に改められました。


ロイヤル・ダッチ・シェルは2010年の現在、石油業界の売り上げ規模で米エクソンモービルに次ぎ、世界2位の会社となっています。


また、今日でもロイヤル・ダッチ・シェル社のタンカーには、貝の船名がつけられているそうです。





その後、マーカスはイギリスへ戻ると名士として迎えられ、1902年にはロンドン市長になりました。


シェル石油の貝のマークには、このような由来があるそうです。




シェル石油の貝のマークを見たら、たまには思い出してください。

PA0_0507.jpg


この貝は、貧しくも冒険心にあふれたイギリスの若者が、青春の日に湘南の海で拾った貝が由来であるということを。



                  シェル(SHELL)石油の貝のマークの話-END  


   ~参考文献~

yudayasyouhou1.jpg
   ユダヤ商法


                       
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コメント

89. 読んだ貝がありました。(^<^)

B・Yさん、おはようございます。♪
(^ ^)//゛゛゛パチパチ
素晴らしいお話です。
石油タンカーの発祥でもありますね。
なるほど!と感心してしまいました。(^^)/

近くのシェル・スタンドの従業員に教えてあげよう。(^<^)
  • 2010-06-19 06:39
  • クロちゃん
  • URL
  • 編集

90. Re: 読んだ貝がありました。(^<^)

クロちゃんおはようございます♪

喜んでいただき、書いた貝がありました(笑)今さら貝で工芸品を作っても、こんなサクセスストーリーを望むべくもありませんよねぇ。

きっとシェルのスタンドの人もこの話は知らないでしょうね!

91. あの貝の形って・・・

ほぉ~SHELL創業者とマリノスのHomeTownって縁があった
のですねえ(まあ、開港は151年前ですし^^;)

でもアノ形って・・アサリぢゃあなく砂肝注意の『カガミガイ』
に近いですよね!?
  <う~ん、中身の無い貝殻いっぱい拾った覚えが>

92. Re: あの貝の形って・・・

hirokazuさん、そうなんです横浜と縁深いんですよ、SHELLは。

貝のマークも、創業当初はまさしくアサリみたいなマークだったようです。その後はカガミガイというかホタテ貝というか、今のようなデザインになって、何度も少しずつ改良されて今のデザインに落ち着いたようです。

しかし、アッキ貝ってのは今はいませんよね?

93. 新腹足目 悪鬼貝科・・?

う~む、アッキーナ(横浜出身)なら朝ドラにも出てますが・・・
魚類図鑑を調べたら、なんと恐ろしげな形の”巻き貝”で分布
:房総半島以南、らしいですね。
  <URL ご参照ください:形状はこれぞ『悪鬼貝』カモ>
※もしや妖怪「サザエオニ」って、こいつが原型なのかな~?

94. Re: 新腹足目 悪鬼貝科・・?

アッキーナ~~~!!は、ハマっ子でしたか!(笑笑)

アッキ貝は巻き貝なんですか?昔はそんなのが湘南にもたくさんあったんですかね~v-323

1584. 

出光との話が出て残念です
  • 2015-02-12 13:08
  • たか
  • URL
  • 編集

1585. Re: タイトルなし

たかさんこんばんは。

そうですね、出光が昭和シェルを買収するという話が出てきているようですね。

ここはひとつ、出光の横顔のマークの背後に貝の絵を置いてもらうというあたりで妥協点を見いだせないでしょうかね?(笑)

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